演劇集団キャラメルボックス2007スプリングツアー
『まつさをな』
脚本・演出 成井豊+真柴あずき
◆東京公演◆4月7日(土)~5月6日(日)
池袋サンシャイン劇場(文化会館4F)
〈全席指定・税込〉5,500円
福岡、神戸公演あり
※一部、舞台の内容に触れています。 「観劇前に知りたくない!」という方はご注意ください。主演は、温井麻耶さんという女優さん。
幕末のはじめ、まだペリーが来航してくるまえのお話です。
4/14(土)19時の回が終わり、カーテンコールで温井嬢は言いました。
それはもう、白い雲が浮かぶ青空のような笑顔で。
「明日はお休みをいただきまして、あさって月曜日
から気持ちも新たに『まつさをな』、
再開いたします……?……あーーーーー!!!!!」
「ちがうちがう!」
「休演日はあさってだよ!」
「もう一回!」
先輩方からすかさずチャチャ、いやフォローが入る。
彼女の頭上に“ガーン”て字が飛び出るのが見えました。
古典的なマンガみたいに動揺して、おでこにタテ線すら
見えた気がします。作ろうと思って作れるもんじゃない
そそっかしさ、愛らしさ。まつさをな顔を両手で覆い、
崩れ落ちる姿はまさに、千鶴(ヒロインの役名)でした。
「失礼いたしました、休演はあした。
あさってまたお会いしましょう!!!」
今度こそカンペキっ! とばかりに福福しく
ホッペを赤らめる千鶴ちゃん、
もはや「しょーがねえか」って半笑いで
袖へ向かうキャストたち。
あんな手に汗握る美しい殺陣を観せてくれた後で、
全力で体当たりしてるのがビシビシ伝わって
くる演技の後で、素に戻ったときのミスにまで、
役の名残があるなんて。
こんな女優に恋をしないで、帰れますか。
東京ではGWまで、福岡、神戸もあるんですね。
さいごまで千鶴でいてください、温井さん。
と、つくばからお祈りしています。
キャラメルごぶさたの方、いつか観ようと思ってる方、
そして食わず嫌いでキャラメル避けてる方!
ぜひぜひ、観てください。
温井さんてインタビューや写真を見た印象のとおりだな、
と思ったのは登場シーン。旅芸人の勝ち気な女剣士
として現れますが、17歳の女の子って設定にしては
キモが座りすぎというか、やけに色っぽくもあり、
コムスメっていうよりキャリアウーマンの貫禄でした。
それから権力者の家の養女になり、必死でしゃなり
しゃなり振る舞ってみたり、人目をしのんで
剣の素振りをしてみたりと、出づっぱりでいるうちに、
どんどん千鶴ちゃんが魅力的になっていきました。
とはいえ、温井さんだけを観ていられなかった。
出づっぱりのヒロインは千鶴だけれども、それぞれの立場や
思惑が交錯する話なので、一人に絞って観られない。
身分ちがいのラブストーリーがメインと見せかけて、
いっきに重い人間ドラマへなだれ込む。
暗殺の黒幕は、実はあの人! という伏線はバッチリ、
このへんで派手なチャンバラ、ここでバーンと
カッコいい台詞、さ~、来た来たっ。
――先が読めても感動する。
読めるからなんだ。読めなければいい芝居なのか?
揚げ足取りをする気が失せる、一所懸命のなにが悪い、
こちらもしっかり観たくなるのだ。
人は生まれつき不公平である。
そんなことに苦しんできた男の台詞も、
あー、うー、分かる……とチクチク来ましたが、
そちらはダークサイドの真実。
ダースベイダーが帝国軍を率いて、
恐怖政治を敷くきっかけになるほうの真実。
「あなたは生きているんですから」
そう千鶴が、男に言います。
正しく生きなさい、強く生きなさい、人のために生きなさい、
などなど、まっとうな教えがつづきそうな言葉では
あるけれど、善悪に対してものすごくニュートラルな
響きをもって聞こえました。
過去がリセットされるわけではない、
あかるい未来が約束されるわけでもない。
真実ってきびしい。
いい台詞だな、と噛みしめる前に、
胸がきゅっと締めつけられました。
だって、なんかすごい必死に言うんだもん、千鶴ちゃん。
自分自身に言い聞かせてるんだとか、男にとっては
死んだ恋人と生き写しの女が叫ぶ台詞なんだとか、
これから明治までいっきに生死をかけた激戦が
行われようとしているんだとか、
頭でつなげてじーんと来る要素はじゅうぶんある上に、
あの声でしょう。音楽とか、踊りとか、味とか、香りとか、
感触とかと同じように、本能にガツンと来るものが、
このとき来たわけです。それまで可愛いなあ、
一所懸命だなあと思って見守っていた千鶴ちゃんに、
あんな声出されちゃって。やばかったです。
いい台詞を大声で言う舞台に感動している自分にびっくりでした。
自分で、キャラメルボックスが面白いと思える日は、来ない気がしていました。
あのーアレでしょ、アツい人たちのアツい演劇っていうの?
やけに早口で滑舌よくて、客席に向かって台詞言っちゃうの。
バタバタ走りっぱなしで、若者パワー全開(中年含む)で、
最後は泣けるピュアなストーリー☆でしょ。
うーん遠慮しとくわ~、と。
熱烈なファンがいる、というのも避けたい理油のひとつでした。
キャラメルに限ったことではないけど、固定ファンがあんまり熱いと、
芝居どうこうの前にドン引きしてしまいます。
中にまざってワーイってやっちゃえればいいけど、
劇場で酒飲んで騒ぐわけじゃないんで、自分のペースで観たいわけです。
キャラメルの良さは、なまあたたかいキャラメルファン独特
の空気が漂う客席や、テーマを高らかにうたい上げる芝居臭さ、
大仰な演技のクセに目をつぶって、
「キャラメルの世界で良しとされるもの」を受け容れる形
でしか理解できないものだと思っていました。
ファンじゃないと分からない世界、その世界に
どっぷり浸からなければ分からない良さなんだろうと。
たとえばキャラメルは、島だと思っていました。
島といってもデカいから、オーストラリア大陸ぐらい。
ええと……この先は、実際のオーストラリアじゃなくて、
あくまで比喩、架空の島として書きますね。自分は日本人。
ちっさい島国の住民。オーストラリアっていうところは、
住んでる人にはたいそう天国らしい。
行ったきり帰ってこないのは、だいたい日本に居場所が
なかった人たちだ。行ってみたけど、コアラもカンガルーも
たいして可愛くなかったよー、と退散してくる人もいる。
さまざまだけれども、まーわざわざ行かなくてもいいかな、
と思っている自分は、日本じゃ多数派である。
そしたら懸賞で、オーストラリア旅行が当たっちゃった。
行ってみたらよかった。
「え、いまさらオーストラリアなんか行くようになっちゃったの? くすっ」
そんなふうに言われても、自分だってそう思ってたんだから、
気にならない。日本に帰ってからは空を仰ぐたび、
空に国境はないんだなーと思う。空なんか見る習慣なかったから
気がつかなかったけど、世の中には鳥のほかにも空を
飛べる生き物がいて、コアラとイグアナが度突き漫才とか
やってる。カンガルーvsカラスで野球やってる。すげー。
ねえねえ、空見て、と隣にいた人をこづく。あ、すげー。
そのまた隣も空を見る。そのまた隣はヘソ曲がりで見ない、
ちらっと見てやっぱり興味わかない人もいる。いろいろだけど、
空すげーことになってるっていうのは、あっちこっちで広まっていく。
そうなったらいいなと思って、書いています。