四代目江戸家猫八襲名披露記念公演

池袋演芸場で初めて寄席を見てから、寄席というものをよそで見ていません。上野の鈴本演芸場、浅草演芸ホール、新宿末廣亭……きっとそれぞれに雰囲気がちがうんだろうな、いろいろな場所で味わってみたいなと思いつつ、池袋にだけ足しげく――いえ、ついでのあるときフラリと何度か入ったことがあります。

そんなこんなで、“四代目江戸家猫八”と聞いてパッと「あの人がついに!」と思うほど寄席にくわしいわけではなくて。年配の芸人さんともっと若めの芸人さんが、指をくわえて器用に鳥の声をマネしているのを、テレビで見たことはありました。猫八さんよりも“江戸家小猫”さんのほうが、なんか可愛らしい名前のおじさんだなあ、と思ってよく覚えていました。彼らが実の親子で、動物ものまねが明治時代からつづく伝統芸だというのは、テレビにちょいちょい登場するときに、刷り込みのようにインプットされた情報でした。

わたしは寄席ビギナーのくせに、知ってる人を狙いすまして見に行ったことがありません。いつ入っても、面白いからです。池袋演芸場で、名前と顔の一致する芸人さんの舞台を見るのは初めてだなあ、それも本日千秋楽とは! たまたま池袋に来てラッキー! そんなふうに浮かれてワクワクしながら入りました。

動物ものまね。自分が知らないだけで、猫八さんはほかにいろんな芸をするのかな……? と思いましたが、受付でもらった番組には「ものまね 小猫改メ江戸家猫八」とある。やることはものまね一本、で間違いないらしい。ものまねを一人で30分? ううむ、長い持ち時間をどうやるんだろう……。次々に現れる芸人さんを楽しみながら、猫八さんの登場を待ちました。橘家円蔵さん、三遊亭円歌さん(師匠って呼ぶのが正しいのかもしれませんが、使い慣れていない自分が使うのは失礼な気がするのでさん付けで通す)が愛らしくてたまりませんでした。「きょうは猫八の襲名披露記念公演にお越しくださってありがとうございます」、そのおっしゃりようが、猫八さんを我が子のようにかわいがってきた時間をいとおしむようで、温かでした。

さて猫八さんの出番。ああ~、テレビで見たことあるお顔! もうすぐ還暦に見えな~い! レパートリーは200種類を超える(生活ほっとモーニングのWeb参照)猫八さん、ですがどんどこモノマネを繰り出していくわけではありません。むしろ芸はほんの一瞬。その、磨きに磨いたモノマネを発するまでの焦らされる時間が、なんとも幸せでした。ずっと見ていたいのは、芸そのものだけじゃない。江戸家猫八という人間の作る、あの幸せな空気を、ずっと吸っていたくなるのです。

小猫と名乗るようになったのは9歳。「おとうさんのお仕事を見ておきなさい」と母に連れられて、舞台袖から初めて先代のコケコッコー! を見たときのショック。「あんたも大きくなったらやるのよ」と言われて、ちょっと「どうしよう」と思ったこと。いつまでも、もっともっと聞いていたい優しい声でした。にこやかに、しかし淡々と思い出話が語られました。いざ芸を披露するときにはもちろん、いよいよだなっ、と客席の緊張がみなぎります。「あ、そこまで力入れて聞かなくて大丈夫ですよ?」そう和ませてくれてから、スッと芸に入る。その切り替えが、ほんとうに素敵でした。満席の会場に遅れてやってきた立ち見客には、舞台上からサクッと「あっち空いてますよ」とご案内。ライブだなあ。

有名なウグイスをはじめ、鳥マネに使う指笛は、口笛の10倍大きな音が出ます。周波数が自然界のそれと一緒なんでしょうね、ピチュピチュという小鳥のさえずりすら、耳にキーンと響きました。また、犬や猫の声帯模写は、人間のどんな歌の発声とも違うそうです。聞こえたままを再現する、それは画家にとってのデッサンと同じです。頭でイメージしてても始まらない。動物にはりついて、鳴く様子を見て、実際に横で鳴いてみる。父から教えられたことはもちろん、いまの芸があるのは、自然観察をつづけて得たものです、とおっしゃってました。ふつうのニワトリと比内鶏、オオハクチョウとコハクチョウ、カルガモとマガモ……ミクロの違いを、なんとなくのさじ加減でなく、こう違う! と掴むまで研究する。そして必死に会得する。できるようになったらハイ完成、じゃないのが芸なんでしょうね。見せ方に心を砕き、笑いと感動のブレンドされた空気をつくりあげて、やっと作品になる。ともあれおおもとは、ひたすら自然と向き合って、体で覚えてアウトプットすること。クリムトの美しい習作がアトリエに散乱していたように、猫八の美声は山野にこだましているのだな、と思いました。


それにしても昼夜あわせて2,500円て。昼12:30~16:00、夜17:00~20:30、合計7時間ですよ。寄席のチケットってほんとに安い。


池袋演芸場番組 平成21年11月20日(金)昼の部 12:30~16:30

落語 柳家喬四郎
漫才 ホームラン

落語 橘家蔵之助
落語 三遊亭踊る多
奇術 アサダ二世
落語 柳家はん治

落語 鈴々舎馬風
俗曲 柳家小菊
落語 春風亭一朝

お仲入り

落語 柳家〆治
落語 橘家円蔵
落語 三遊亭円歌
太神楽 鏡味三郎社中

ものまね 小猫改メ 江戸家猫八
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by toyorubichun | 2009-11-21 20:19 | 舞台